東博公開研修会「ミュージアム情報の制作・管理・活用」

東京国立博物館の公開研修会「ミュージアム情報の制作・管理・活用」に行って来ました.

閉会の挨拶で,地味なタイトルながら非常に骨太な議論ができたのでは,みたいなことを聞き,まさにその通りだと実感しました.

以下,参加レポです.

※レポはryojin3の所感であり,講演者の意見・意図が100%反映されているとは限りません!その点ご注意くださいませ.



基調講演
  • 題目:情報で活きるミュージアム
  • 発表者:笠羽晴夫氏(財団法人デジタルコンテンツ協会 研究主幹)


1.デジタルアーカイブの歴史
  • 1990年代初頭の電子博物館・電子美術館・電子図書館とマルチメディアの話から,現在のネットワーク環境での情報蓄積公開についての概論.
2.これからのデジタルアーカイブ





報告
  • 題目:ミュージアム情報と学芸業務
  • 発表者:村田良二氏(東京国立博物館 情報課 研究員)

1.資料DBと学芸業務について
  • 学芸業務において,資料DBはその根幹をなすDB.ところが,DBのデータ入力の難しさは以下のデータが物語っている.
  • 平成19年の文化庁調査によれば,公立博物館の所蔵資料と学芸員数の中央値は6000点/3人.更に細かく分類すると,以下のようになる.
    • 総合博物館 30000点/5人
    • 歴史系博物館 12000点/4人
    • 美術館 1626点/3人
  • また,常設展の展示の平均値は以下のようになる.
    • 総合博物館 1000点
    • 歴史系博物館 446点
    • 美術館 275点
  • 作品に係る学芸系業務
    • 受け入れ,調査研究,展示,修理,貸借等.
  • 相補的関係
    • 収蔵品DB→データ活用→業務がスムースに進行する.
    • 業務中→記録の蓄積→収蔵品DBが豊かになる.
  • 収蔵品DBの問題
    • 「古い貧弱なデータ」は「使われない」→悪循環.
  • 収蔵品DBの活用
    • 「最新の充実したデータ」は「積極的活用」される→好循環.
    • 定型的作業の軽減=システムを使うと楽になる!はインセンティブ.
    • コピペを減らす.
    • 予定履歴管理は作品ごと,時期ごと,展示室ごと,,など様々な角度から見たいので,,,一元管理.
2.業務プロセスの分析
  • 具体的に収蔵品DBを活用するためには業務プロセス分析が重要.
  • ラフなBPM(Business Process Modeling)の活用.
    • 共通要素
      • 期間,場所,関係者 → 全て収蔵品DBに関連する.
    • 計画の進行
      • 計画から変更や破棄まで含めた業務のライフサイクルの把握.
  • 共通要素(現在取り組んでいるもの)
    • 一覧と検索
    • リスト編集
    • プロセス管理
    • 定型文書出力
    • これらを実装したシステムのデモ
3.システム構築の実際
  • インセンティブがないと,利用者は使わない.
  • 段階的な構築が大事.
    • 無理のない移行(慣習の尊重,学習障壁の低減)
    • 身近な(適切な)目的設定(期待感)
  • 技術的課題
    • モジュール化→APIの公開とか,Webサービス or SOA→他館との連携等.
    • URLの適切な利用.
    • データ参照はgetをもっと活用すべき.





報告
  • 題目:デジタル画像情報の基礎
  • 発表者:鈴木卓治氏(国立歴史民俗博物館 准教授)
1.画像の基本
  • 画像の基本的な話.
  • 最近は光の定義として,sRGBが一般的らしい.
  • よく記録媒体の寿命が議論されているが,フォーマットの寿命のほうが致命的で大問題だ.
2.デジカメの基本
  • デジカメのCF配列は,RGBかCMYが基本.
3.おまけ
  • マクベスのカラーチャートはいい.
# 他にももっと有益なことを話されていた気がしたが,メモし忘れました...




報告
  • 題目:デジタル情報管理の実務
  • 発表者:田良島哲氏(東京国立博物館 情報管理室長)

1.博物館にある非デジタル情報
  • テキスト:調書,台帳・目録,解説文・ニュースレター,紀要・報告書・図録.
  • 静止画:写真,図面・スケッチ.
  • 動画:映画フィルム・ビデオテープ.
  • 音声:オーディオテープ・レコード.
2.デジタル化のメリット
  • 処理の早さ.
  • 迅速・柔軟な検索→新たな視点による発見.
  • 蓄積が容易.
  • 流通の簡便さ.
  • 利用範囲の広さ
3.ネットワーク化のメリット
  • 情報の流通と共有が進む.
    • 情報が多くの目で評価される.新しい発見.
  • コミュニケーション環境が改善.
    • むだな連絡調整の削減.
    • 事務処理の迅速化.
    • 新たな出会い(人-人,人-モノ,モノ-モノ).
4.何故活用されない?
  • 素材が供給されない.
    • ミュージアム側の人・資金不足,技術支援がない.
  • 制作者の層の薄さ・知的力量不足.
    • 素材(文化遺産)の知名度頼り,素材の切り貼りに終わる例,コンテンツとしての魅力に欠ける.
  • 需要が起こらない(選好の対象外).
5.デジタル情報作成の基本
  • 真正性がある.
    • データの根拠を明確に.
  • 長く使える.
    • 汎用的なデータ形式,非依存.
  • できるだけたくさん.
    • 利用には品揃えが大事.
6.データ本位の情報蓄積
  • 技術に振り回されない.標準的なもの.
7.何をすればいいか
  • 手持ちの資産の棚卸し.
    • 使えるかどうかの水準把握,メタデータの把握.著作権,肖像権,パブリシティ権.
  • 機会を逃さず.
    • 予算が付いたら.
    • アプリ依存データ,事業に必要な部分的データにしか作らない(=情報の陳腐化),はダメ.
  • 日常的に.
    • 業務の中でデジタルデータ作成を組み込む.作らざるを得ない or インセンティブ.
    • 入力には知識が必要.
8.東博の事例
  • 受け入れ時に撮影(研究員)→ネット+DB→情報課で管理.





報告
  • 題目:ミュージアム・ウェブサイトの運用
  • 発表者:小林徹氏(東京国立博物館 広報室 主任)

1.東博のウェブサイトについて





報告
  • 題目:「イメージアーカイブ事業」の展開
  • 発表者:手嶋毅氏(株式会社DNPアーカイブ・コム 常務取締役)
1.DNPアーカイブコムとは
  • DNPアーカイブコムのデジタルアーカイブ
  • デジタル化は,フィルムから起こすのと,デジカメ撮影と2パターンある.
2.エージェンシーの公共/営業サービス
  • 公共的な立場として
    • 収蔵品の目録DB作成,広く無料で情報提供,国の文化資産の記録.
  • 営業的な立場として
    • 上記を達成するための資金獲得,出版社への提供,世界的に事業/技術的に優位な立場を確保.
3.欧米市場
4.その他
  • 東博イメージアーカイブは,利用形態や利用量に応じて様々な課金をする.
  • 権利のクリアランスが重要.
  • イメージを用いた様々な事業展開も行っている.





報告
  • 題目:アーカイブデータから公開コンテンツへ
  • 発表者:山崎千代乃氏(凸版印刷株式会社 文化事業推進本部デジタルコンテンツ部 課長)

1.情報の公開と利用
  • 印刷,DB+検索システム,閲覧システム,Web,メディア
  • 誰に何を何故伝えるか,で変わってくる
2.VR
  • 利点
    • 可視化,仮想体験(遺跡とか行けない場所とか)復元
    • 再現(欠損や当時の状況.データに根ざして)
3.凸版印刷のVR事業
4.TNM & TOPPAN ミュージアムシアター
最後のほうは疲れてしまってメモもだんだん適当に...




質疑
  • 東博の業務システムのコードは公開する?
    • 将来的には.まずは,業務の一般化モデル作りたい(どこかと共同研究).
  • APIのような形で公開する?
    • そのうち.前向きです.
  • 学芸員の展覧会用のtmpDBみたいなものは付けられる?
    • システムに収蔵品をまとめるリスト機能がある.これを拡張する必要がある.
  • これからのシステムはブラウザベースなの?
    • ユーザにとっては楽.外部公開でも応用できる.世の中の流れ.ただ,ブラウザはデメリットもあるので,場合によってはクライアントソフトを作る.
  • 東博はNDLの近代デジタルライブラリみたいな公開はするの?
    • 検討中.古典籍が数万のオーダーであり,かつマイクロフィルムがなくなりそうなので,デジタル化作業とインターフェースの検討中.
  • 田良島さんの発表のデジタル化で「たくさん作る」ってどういう意味?
    • モノの数が大事.利用者の選択の幅は広いほうが良い,という意味.メタデータも太っているほうがいいが,これは作るのが大変.





ここにまとめるだけでも相当時間を要しました.それだけ,議論の中身のある研修会だったのではないでしょうか.

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