2008年11月18日(火),DAF(Digital Archive Forum)主催で行われたMLAの連携「デジタルへの実践と課題」に参加してきました.今回も会場は慶應大でした.前回のシンポジウムといい,最近慶應に行く機会が多いです.
基本情報
デジタル・ネット時代の大学図書館:慶應義塾のデジタル化事業
慶應義塾大学メディアセンターにおけるデジタルへの取組み
ryojin3の考察
今回のシンポジウムは,短時間の割に様々なトピックが織り交ぜられており,非常に濃密であったと同時に,ややまとまりに欠ける感があったかと思います.後でゆっくり考えてみると,資料を扱う仕事をしているあらゆる方面の人達が「資料をデジタル化すること」の意義と問題点について意識を共有する場だったのかもしれません.
デジタル化された後のデータ利用についても考えさせられました.Michalko氏はConvergenceが重要であり,そのためには各機関が持つデータをCollaborationすべきだと言う.これはいろいろ工夫をすれば利用者側から見てインターフェースが統一されるという点で非常に有効です.しか し,そのために各機関がお金を出し合って協業するというのはお金以外に人的にも時間的にもコストがかかり現実味が薄れますし,国や自治体のような機関が中心になるとどうもトップダウンでシステムが組まれ,面白味というか,ワクワク感というか,そんなものがが薄れる気がします.
岐阜県の例にあったような,公開型の大型DBにハイパーリンクを貼ったり,あるいは,複数のDBのAPIを用いてデータを横断的に取得するような仕組み,つまり小さなところ(一般ユーザ?)から大きなところ(専門機関?)に働きかける仕組みのほうがしっくりくる気がするのです.大きなところはそういうことが可能な窓口を用意しておいてくれればよい.
紙をデジタル化する際のポイントの1つに,特徴的なコレクションの作成がありました.この形成方法もまた,小から大へのアプローチが可能なのではないかと思っています.コレクションという語は図書館関係の人がよく使う専門用語かと思いますが,ryojin3は「あるキーワードや定義に基づいて集められるコンテンツ群」と理解しています.専門家が専門知識に基づいてコレクションを作るのももちろん大事ですが,ここでもやはり小から大,一般ユーザのアイデアを専門家の知識が上手にサポートできる仕組みがあった方が面白いかもしれません.
例えばユーザが独自の視点で構築するUser Orientedなコレクションであったり,各コンテンツのメタデータ(+コメント等のアノテーション)を機械的に解析するMachine Orientedなコレクションであったり,CGC(Consumer Generated Content)を実現するシステムというのも面白いのではないでしょうか.ある公文書データと博物館収蔵品データ,歴史的な音声データ等を組み合わせて教材コンテンツを自作するとか,化学データと化学者データを組み合わせて模擬的な実験体感環境を作るとか,そういうことが実現できそうな気がします.
このようなコレクションは,これまでの専門家によるコレクションの形成方法と大きく異なるため,(コンテンツの組み合わせ方にはデザインセンスが必要であるものの)十分魅力的なコレクションになりうると思います.
もちろん,このようなシステムを実現するためには,大側,つまりデータ提供側のデータが整備されていくことが前提になります.
その意味で,データの整備についてもいろいろな苦労が見られて,まだまだ解決課題は多いなと思いました.シソーラス,オントロジ,メタデータあたりのセマンティクス処理が重要なキーになるのではないかと思います.
基本情報
- 日時:2008年11月18日(火)
- URL:http://daf.lib.keio.ac.jp/index.php/jpn/News/node_343
- 参加者:50名×4列=200人くらい収容の部屋で,100人くらいいる?
- リアルタイムにネットで映像配信をしていたようだ
- 資料は後でネットにアップされるらしい
- デジタル・ネット時代の大学図書館:慶應義塾のデジタル化事業(pdf)
- 慶應義塾大学メディアセンター所長 杉山伸也
- Digitization among MLA - Emerging examples and challenges(pdf)
- ビデオ(ストリーミング)
- OCLC RLG Programs vice-president James Michalko
- 国会図書館の資料デジタル化:課題と展望(pdf)
- 国会図書館 総務部企画課電子情報企画室長 田中久徳
- 日本におけるデジタル・アーカイブズの紹介:国立公文書館並びにアジア歴史資料センターの取組み(pdf)
- 国立公文書館理事 高山正也
- 東京国立博物館における資料デジタル化(pdf)
- 東京国立博物館 学芸企画部博物館情報課情報管理室 村田良二
- 日本におけるアーカイブズ総合目録の構築(pdf)
- 国文学研究資料館 五島敏芳
- 慶應義塾大学メディアセンターにおけるデジタルへの取組み(pdf)
- 慶應義塾大学メデイアセンター本部 入江伸
- 出版コンテンツのデジタル化 現状と可能性(pdf)
- 日本出版販売株式会社 小幡祥文 亀井理恵
- デジタルアーカイブフォーラム活動報告
- 慶應義塾大学メデイアセンター本部 入江伸
- 意見交換
- MLA(Museum,Library,Archives)連携のワークショップ
- 過去2年ワークショップを開催している
- 2006年:インターネット時代にMLAが連携することに意義があることを確認
- 2007年:多様な連携の可能性と問題の提起.併せてDAF(Digital Archive Forum)の設立を提案
- 2008年:紙のデジタル化に焦点を当て,取り組み・現状報告と課題の議論
- デジタル資料の公開に伴う著作権問題
- デジタルデータの長期保存
- デジタルデータの流通,技術,組織,コスト等の諸問題
デジタル・ネット時代の大学図書館:慶應義塾のデジタル化事業
- 慶應の杉山先生が講演
- 図書館の向かうべき姿
- 特徴的なコレクション(日本固有のもの,アジア固有のもの)のデジタル化と可視化を行う
- デジタル化:特徴的な資料のデジタル化
- 可視化:デジタル化したコンテンツを見せるためのソフトウェア?
- これらを英語で発信することが大事
- OCLCのJames Michalko氏が講演
- 昨年のシンポジウムで言ったことを振り返る形式
- 特殊コレクションのデジタル化はやるべき
- Collective Collectionという概念
- 皆がWebを使う世界では,ユーザは様々なタイプのコンテンツを求めている
- コラボレーションの重要性
- 特殊コレクションもコラボしなければ活きない
- 技術,標準化,資金調達等も併せて重要
- 最終形態はConvergence
- MLA間で知恵を出し合い(Coordination),お金を出し合って共通のデジタルリポジトリを作る(Collaboration)
- コラボレーションの実践
- ワークショップでコラボを実践すべし
- モデルの確立,部門間の連携強化,具体的な方策の議論を行うとよい
- 実際,OCLC ではデジタル化・横断検索・メタデータ等,5 つのプロジェクトを実践している
- 興味がある人は資料ダウンロードできるよ(多分下のリンク先)
- 電子図書館
- 商用検索と出版社動向をWatchすることが大事
- パイロット電子図書館プロジェクト(1994)から始まっていろいろ歴史あり...
- 資料のデジタル化
- 現代,昭和:マイクロフィルム化した資料をデジタル化する
- 戦前:1割から2割程度マイクロフィルム化
- 近代デジタルライブラリーの紹介
- 70万件/月アクセス
- カテゴリ毎の利用例
- 権利者を探し出すのが難しい
- 「文化庁長官裁定制度」というものがある
- 長期保存
- 従来はマイクロ代替物を作成
- フィルム産業の衰退に伴い,デジタル化も考えている(資料デジタル化基本計画)
- 利用範囲・定義の問題
- 相互貸借をどう担保するか
- 電子版下,電子納本による蓄積
- 元慶應,現国立公文書館の高山先生が講演
- 話に落ち着きがあり,慣れてるなって感じた
- 特殊コレクションとして「公文書」.そうくるよね
- 公文書のデジタル化はトータルの20%程度か
- 体制の強化を強調
- デジタル化の内容
- 目録情報+オリジナル紙のデジタル化
- 目録に関しては,年度内に受け入れたものは年度内にデジタル化する
- 目録デジタル化は 7000件/年
- オリジナル紙のデジタル化はそのうちに
- 目録データの検索精度
- 資料の標準化のレベルが違うので,図書館のほうがレベルが高い
- 図書館に追いつくのがいいことか,はまた別の問題
- 外部連携
- オブザーバで国会図書館
- 子供向け? 歴史公文書探求サイト ぶん蔵
- 標準化
- 地方自治体が準拠可能なデジタルアーカイブシステムの標準仕様書は昨年完成?
- ネットでは資料見つからず...
- アジア歴史資料センター
- シソーラスの整備が課題
- 太平洋戦争→大東亜戦争,中国侵略→シナ侵略といった表記ゆれの吸収
- このあたりの話も参照のこと
- 今後の課題
- 30年原則に基づき,そろそろ入ってくるパッケージ系,ボーンデジタルの公文書の取扱い
- Watchすべし
- 東博初の情報系研究員,村田氏
- 東博のデジタル化の現状説明
- 文化財の写真は事ある毎に撮る
- 展覧会,図録/目録作成,調査,特別観覧
- 古典籍はまずマイクロフィルム化
- 写真フィルムは 4x5 で 30万枚程度
- 管理システム
- 課題
- 学芸員の選別を必要としないユーザニーズの抽出
- RAWデータの取扱い
- 研究員の個人撮影写真の利用方法
慶應義塾大学メディアセンターにおけるデジタルへの取組み
- 違うタイトルで講演.タイトル「紙とデジタル・・・(失念しました)」
- 入江氏は今回のワークショップの仕掛け人
- 出版社とユーザがダイレクトにつながることで起こる図書館の中抜き化を防ぐため,データ作成やシステム・保存において図書館の必要性をアピール?
- 日販の人
- 電子書籍の現状と課題を語る
- 内容は主にデジタルコンテンツ白書やケータイ白書等のデータか
ryojin3の考察
今回のシンポジウムは,短時間の割に様々なトピックが織り交ぜられており,非常に濃密であったと同時に,ややまとまりに欠ける感があったかと思います.後でゆっくり考えてみると,資料を扱う仕事をしているあらゆる方面の人達が「資料をデジタル化すること」の意義と問題点について意識を共有する場だったのかもしれません.
デジタル化された後のデータ利用についても考えさせられました.Michalko氏はConvergenceが重要であり,そのためには各機関が持つデータをCollaborationすべきだと言う.これはいろいろ工夫をすれば利用者側から見てインターフェースが統一されるという点で非常に有効です.しか し,そのために各機関がお金を出し合って協業するというのはお金以外に人的にも時間的にもコストがかかり現実味が薄れますし,国や自治体のような機関が中心になるとどうもトップダウンでシステムが組まれ,面白味というか,ワクワク感というか,そんなものがが薄れる気がします.
岐阜県の例にあったような,公開型の大型DBにハイパーリンクを貼ったり,あるいは,複数のDBのAPIを用いてデータを横断的に取得するような仕組み,つまり小さなところ(一般ユーザ?)から大きなところ(専門機関?)に働きかける仕組みのほうがしっくりくる気がするのです.大きなところはそういうことが可能な窓口を用意しておいてくれればよい.
紙をデジタル化する際のポイントの1つに,特徴的なコレクションの作成がありました.この形成方法もまた,小から大へのアプローチが可能なのではないかと思っています.コレクションという語は図書館関係の人がよく使う専門用語かと思いますが,ryojin3は「あるキーワードや定義に基づいて集められるコンテンツ群」と理解しています.専門家が専門知識に基づいてコレクションを作るのももちろん大事ですが,ここでもやはり小から大,一般ユーザのアイデアを専門家の知識が上手にサポートできる仕組みがあった方が面白いかもしれません.
例えばユーザが独自の視点で構築するUser Orientedなコレクションであったり,各コンテンツのメタデータ(+コメント等のアノテーション)を機械的に解析するMachine Orientedなコレクションであったり,CGC(Consumer Generated Content)を実現するシステムというのも面白いのではないでしょうか.ある公文書データと博物館収蔵品データ,歴史的な音声データ等を組み合わせて教材コンテンツを自作するとか,化学データと化学者データを組み合わせて模擬的な実験体感環境を作るとか,そういうことが実現できそうな気がします.
このようなコレクションは,これまでの専門家によるコレクションの形成方法と大きく異なるため,(コンテンツの組み合わせ方にはデザインセンスが必要であるものの)十分魅力的なコレクションになりうると思います.
もちろん,このようなシステムを実現するためには,大側,つまりデータ提供側のデータが整備されていくことが前提になります.
その意味で,データの整備についてもいろいろな苦労が見られて,まだまだ解決課題は多いなと思いました.シソーラス,オントロジ,メタデータあたりのセマンティクス処理が重要なキーになるのではないかと思います.