MLAの連携「デジタルへの実践と課題」

2008年11月18日(火),DAF(Digital Archive Forum)主催で行われたMLAの連携「デジタルへの実践と課題」に参加してきました.今回も会場は慶應大でした.前回のシンポジウムといい,最近慶應に行く機会が多いです.

基本情報
  • 日時:2008年11月18日(火)
  • URL:http://daf.lib.keio.ac.jp/index.php/jpn/News/node_343
  • 参加者:50名×4列=200人くらい収容の部屋で,100人くらいいる?
  • リアルタイムにネットで映像配信をしていたようだ
  • 資料は後でネットにアップされるらしい
プログラム(敬称略)
概要
  • MLA(Museum,Library,Archives)連携のワークショップ
  • 過去2年ワークショップを開催している
  • 2006年:インターネット時代にMLAが連携することに意義があることを確認
  • 2007年:多様な連携の可能性と問題の提起.併せてDAF(Digital Archive Forum)の設立を提案
  • 2008年:紙のデジタル化に焦点を当て,取り組み・現状報告と課題の議論
    • デジタル資料の公開に伴う著作権問題
    • デジタルデータの長期保存
    • デジタルデータの流通,技術,組織,コスト等の諸問題
各発表メモ

デジタル・ネット時代の大学図書館:慶應義塾のデジタル化事業
  • 慶應の杉山先生が講演
  • 図書館の向かうべき姿
    • 特徴的なコレクション(日本固有のもの,アジア固有のもの)のデジタル化と可視化を行う
      • デジタル化:特徴的な資料のデジタル化
      • 可視化:デジタル化したコンテンツを見せるためのソフトウェア?
    • これらを英語で発信することが大事
Digitization among MLA - Emerging examples and challenges
  • OCLCのJames Michalko氏が講演
  • 昨年のシンポジウムで言ったことを振り返る形式
  • 特殊コレクションのデジタル化はやるべき
  • Collective Collectionという概念
    • 皆がWebを使う世界では,ユーザは様々なタイプのコンテンツを求めている
  • コラボレーションの重要性
    • 特殊コレクションもコラボしなければ活きない
    • 技術,標準化,資金調達等も併せて重要
    • 最終形態はConvergence
      • MLA間で知恵を出し合い(Coordination),お金を出し合って共通のデジタルリポジトリを作る(Collaboration)
  • コラボレーションの実践
    • ワークショップでコラボを実践すべし
    • モデルの確立,部門間の連携強化,具体的な方策の議論を行うとよい
    • 実際,OCLC ではデジタル化・横断検索・メタデータ等,5 つのプロジェクトを実践している
    • 興味がある人は資料ダウンロードできるよ(多分下のリンク先)
国会図書館の資料デジタル化:課題と展望
日本におけるデジタル・アーカイブズの紹介:国立公文書館並びにアジア歴史資料センターの取組み
  • 元慶應,現国立公文書館の高山先生が講演
  • 話に落ち着きがあり,慣れてるなって感じた
  • 特殊コレクションとして「公文書」.そうくるよね
  • 公文書のデジタル化はトータルの20%程度か
    • 体制の強化を強調
  • デジタル化の内容
    • 目録情報+オリジナル紙のデジタル化
    • 目録に関しては,年度内に受け入れたものは年度内にデジタル化する
      • 目録デジタル化は 7000件/年
    • オリジナル紙のデジタル化はそのうちに
  • 目録データの検索精度
    • 資料の標準化のレベルが違うので,図書館のほうがレベルが高い
    • 図書館に追いつくのがいいことか,はまた別の問題
  • 外部連携
  • 標準化
    • 地方自治体が準拠可能なデジタルアーカイブシステムの標準仕様書は昨年完成?
      • ネットでは資料見つからず...
  • アジア歴史資料センター
    • シソーラスの整備が課題
      • 太平洋戦争→大東亜戦争,中国侵略→シナ侵略といった表記ゆれの吸収
  • 今後の課題
    • 30年原則に基づき,そろそろ入ってくるパッケージ系,ボーンデジタルの公文書の取扱い
  • Watchすべし
東京国立博物館における資料デジタル化
  • 東博初の情報系研究員,村田氏
  • 東博のデジタル化の現状説明
  • 文化財の写真は事ある毎に撮る
    • 展覧会,図録/目録作成,調査,特別観覧
  • 古典籍はまずマイクロフィルム化
  • 写真フィルムは 4x5 で 30万枚程度
  • 管理システム
  • 課題
    • 学芸員の選別を必要としないユーザニーズの抽出
    • RAWデータの取扱い
    • 研究員の個人撮影写真の利用方法
日本におけるアーカイブズ総合目録の構築
  • 国文学研究資料館EAD/XMLな五島氏.
  • 資料館が戸越銀座から立川に移ったらしい.
  • 全国アーカイブズ総合目録
    • ユニオンカタログという言い方
  • DACSに基づいてシステムを作ったらしい
慶應義塾大学メディアセンターにおけるデジタルへの取組み
  • 違うタイトルで講演.タイトル「紙とデジタル・・・(失念しました)」
  • 入江氏は今回のワークショップの仕掛け人
  • 出版社とユーザがダイレクトにつながることで起こる図書館の中抜き化を防ぐため,データ作成やシステム・保存において図書館の必要性をアピール?
出版コンテンツのデジタル化 現状と可能性
  • 日販の人
  • 電子書籍の現状と課題を語る
  • 内容は主にデジタルコンテンツ白書やケータイ白書等のデータか

ryojin3の考察

今回のシンポジウムは,短時間の割に様々なトピックが織り交ぜられており,非常に濃密であったと同時に,ややまとまりに欠ける感があったかと思います.後でゆっくり考えてみると,資料を扱う仕事をしているあらゆる方面の人達が「資料をデジタル化すること」の意義と問題点について意識を共有する場だったのかもしれません.

デジタル化された後のデータ利用についても考えさせられました.Michalko氏はConvergenceが重要であり,そのためには各機関が持つデータをCollaborationすべきだと言う.これはいろいろ工夫をすれば利用者側から見てインターフェースが統一されるという点で非常に有効です.しか し,そのために各機関がお金を出し合って協業するというのはお金以外に人的にも時間的にもコストがかかり現実味が薄れますし,国や自治体のような機関が中心になるとどうもトップダウンでシステムが組まれ,面白味というか,ワクワク感というか,そんなものがが薄れる気がします.

岐阜県の例にあったような,公開型の大型DBにハイパーリンクを貼ったり,あるいは,複数のDBのAPIを用いてデータを横断的に取得するような仕組み,つまり小さなところ(一般ユーザ?)から大きなところ(専門機関?)に働きかける仕組みのほうがしっくりくる気がするのです.大きなところはそういうことが可能な窓口を用意しておいてくれればよい.

紙をデジタル化する際のポイントの1つに,特徴的なコレクションの作成がありました.この形成方法もまた,小から大へのアプローチが可能なのではないかと思っています.コレクションという語は図書館関係の人がよく使う専門用語かと思いますが,ryojin3は「あるキーワードや定義に基づいて集められるコンテンツ群」と理解しています.専門家が専門知識に基づいてコレクションを作るのももちろん大事ですが,ここでもやはり小から大,一般ユーザのアイデアを専門家の知識が上手にサポートできる仕組みがあった方が面白いかもしれません.

例えばユーザが独自の視点で構築するUser Orientedなコレクションであったり,各コンテンツのメタデータ(+コメント等のアノテーション)を機械的に解析するMachine Orientedなコレクションであったり,CGC(Consumer Generated Content)を実現するシステムというのも面白いのではないでしょうか.ある公文書データと博物館収蔵品データ,歴史的な音声データ等を組み合わせて教材コンテンツを自作するとか,化学データと化学者データを組み合わせて模擬的な実験体感環境を作るとか,そういうことが実現できそうな気がします.

このようなコレクションは,これまでの専門家によるコレクションの形成方法と大きく異なるため,(コンテンツの組み合わせ方にはデザインセンスが必要であるものの)十分魅力的なコレクションになりうると思います.

もちろん,このようなシステムを実現するためには,大側,つまりデータ提供側のデータが整備されていくことが前提になります.

その意味で,データの整備についてもいろいろな苦労が見られて,まだまだ解決課題は多いなと思いました.シソーラス,オントロジ,メタデータあたりのセマンティクス処理が重要なキーになるのではないかと思います.

デジタル知の恒久的な保存と活用にむけて - デジタルジレンマへの挑戦

2008年10月24日(金),慶應大学DMC機構の国際シンポジウム「デジタル知の恒久的な保存と活用にむけて - デジタルジレンマへの挑戦」に参加してきました.このシンポジウムは,映画・図書館・美術館・アーカイブシステム・ストレージデバイスの専門家が講演を行い,「デジタル知」の永続的な保存と活用について議論するシンポジウムでした.

講演内容

上記を見ても分かるとおり,非常に盛りだくさんでした.時間の都合で,最後の鼎談は聞けませんでしたが,1)~6) まで,非常に楽しく拝聴させてもらいました.既に講演資料もアップロードされているようなので,ざっとまとめと所感を書いておきます.

講演 1)
AMPAS(The Academy of Motion Picture Arts and Sciences) がまとめた「The Digital Dilemma」という冊子の内容をまとめたもの.主にデジタル映画素材のアーカイブ化と アクセスに関する課題がまとめられている.ちなみに,会場では冊子の和訳本が配られた.今回が日本発らしい.ラッキー.
講演 2)
国会図書館の長尾先生の講演はいたって普通.国会図書館の紹介から始まり,増え続ける資料とその保存問題,デジタル化と著作権問題,WARP の話等々.
講演 3)
ケン・ディボドー氏は NARA のアーカイブプロジェクトの総責任者らしい.講演資料の最後から2枚目のスライド,Preservation toolsのグラフは興味深い.縦軸に固有性(特定→一般),横軸に技術(技術→方法→オブジェクト)を取り,様々なトピックを配置しているが,1つ1つが掘り下げるとそれだけで本が書けそう.
講演 4)
慶應大の青山先生はデジタルコンテンツの発展を3軸(Volume,Quality,Time)で表現しているのが興味深い.会場からも質問が出たが,Quality をどう評価するのか難しそうだ.また,近い将来ストレージの容量不足が起こることに言及している.いらない情報が多いのか,人間の活動において大量の情報が必要になってきたのか.難しいところ.
パネル 1) (各人の発表)
パネルは,各人がそれぞれデジタル知の永続的な保存と活用について思うところを述べて,それについてディスカッションする形式.
1 人目は Nii の安達先生.Nii がやってる電子ジャーナルの NII-ELS や CiNii を例に,電子図書館と絡めた話をしていた.深層 Web のアーカイブに言及していたのが興味深い.
2 人目は NHK ライツ・アーカイブセンターの長町さん.NHK の映像資料をどう使っていくかの話が中心.活用する素材として,地域映像とか,戦争等の歴史映像,視聴者が撮った映像の二次利用等.映像は権利処理が大変だと認識しているようで,DRM の重要性を話していた.
3人目は慶應大の小野先生.元 NTT で 4K の研究をされていたとか.ユニバーサルアーカイブっていい響きだなぁ.内容はデジタルアーカイブを概観(作成→管理保存→利用)し,アーカイブデータのライフサイクルについてザッと述べていた.デジタル化のところですごいカメラ写真が続出してた.
パネル 1) (討論)
デジタル知の「時間的な持続可能性」について以下の議論が行われた.
  • 電子ジャーナルで昔に撮った解像度の低いデータをどうするか
    • →ある程度技術でカバーできる(!?)
  • 電子ジャーナルの管理用メタデータをどうするか
    • → XML がメインストリーム
  • 映像や音声など,いわゆるマルチメディアをどう取り扱うか
    • → 商業ベースでは既に行われているので,その手法の永続化がテーマ.
    • NHK の場合,映像は国民の財産だから永久保存は大前提.
    • ニュース映像等,鮮度が必要なものはファイルレス・テープレスのハイアクセシビリティが求められる.
  • NHK ではデータだけでは不安なのでフィルムの管理も徹底している.
  • デジタル写真の証拠性は?
    • → 1) GPS と絡めた透かし技術,2) 標準化というアプローチがある.
  • コンテンツの Quality の表現能力は技術的に見てどうか?
    • →時間がかかるが,近い将来(5~10年?)規格に沿った器材が登場し,Quality の表現能力が確保されるだろう
パネル 2) (各人の発表)
パネル 2) も 1) 同様,各人が簡単に発表し,後半議論,する予定だったが,各人が発表をした時点でタイムアウトだった.
1 人目の Pacific Interface の Herr 氏.コンサルだとか.NDIPP,NARAの取り組み,NSF の DataNet の紹介等.
2 人目はビフレステックの井橋氏.元 SONY の人で,光ディスクの標準化が専門.様々な光ディスクの標準について,歴史や規格の意図,最近の動向等を話されていた.今年の夏に NPO 法人アーカイヴディスクテストセンターを作り,ディスクの信頼性評価を行っているようだ.
3 人目は京大の越智先生.非常に面白かった.「密封半導体メモリ」というものを考えており,データが書き込まれた半導体メモリを密封することでそのまま長期保存に活かせないかという話.シリコンと二酸化シリコン(SiO2)で半導体デバイスを構成し,それをガラスで密封してしまうというやり方.メモリチップに物理的な接触がないので,かなり長期間使えるらしい.
4 人目は情報ストレージ研究推進機構の押木氏.ハードディスクの構造と,RAID についてわかりやすく解説をしていた.
その他
  • 鼎談は帰ったので聞けてません...
  • ケン・ディボドー氏(NARAの人)はテレビ講演だった.録画でなく,HDTV をネットワークでつないだものらしい.
  • 机がないので,メモが取りづらかった
  • この日は大雨.靴がぐっちょりしてしまった
  • 休憩時間に水が配られた.リッチ!
  • 専属?のカメラマンがいたのだが,フラッシュをバシャバシャ焚いてて目が痛くなるほどだった.講演の邪魔になるほど写真を撮るのはどうなのかなぁ.
  • 会場写真にチノパンを履いている ryojin3 が足だけ写りこんでいます.到着時間がギリギリだったので,結構後ろの席に座ったんです^^