日本のMLA連携の方向性を探るラウンドテーブルI

またしてもちょっと前のネタですが(^^;,今回は昨年10月に開催された「日本のMLA連携の方向性を探るラウンドテーブルI」についてです.

仕事の都合で行くことができなかったのですが,フォーラム告知サイトには概要と配布資料がアップされています.また,NDLのカレントアウェアネス-Eには総括が報告されています.その他,いくつかのブログでも感想が述べられているようです.いい時代になってきたなぁ.
 いくつかのブログ記事
このフォーラムは最近博物館情報学界隈でよく耳にする「MLA連携」について,M(Museum),L(Library),A(Archives)それぞれの関係者が集まって課題を整理し,連携に向けて具体的なアクションを起こしていこうという意図のもと開催されたようです.

主催は特定非営利活動法人知的資源イニシアティブ.ryojin3はこの団体を知らなかったのですが,来るべき知識創造社会の基盤データとなる情報資源(図書情報や文化情報,ネット情報等を挙げています)の整備と活用に関する研究・提言・人材交流を行っている団体のようです.

個人的な意見ですが,MLAが持つ情報資源の維持管理には主として利用者の税金や利用料によってまかなわれている場合が多いかと思います.従って,当然ながらMLAは出資者(≒利用者)に対価として質の高いサービスを提供する義務があります.その1つの解として,関係機関と連携し,より幅と奥行きのある情報を提供していこうとする姿勢には賛成です.

また,「人類の知識や文化」を記録・整理・保存し後世に伝えていくというMLAが共通に持つ大きな意義に対しても,相互連携することで「伝えていく」部分により深い理解を与えられそうな気がします.

では具体的にどのように連携するのか.

NDLやブログ記事の報告によれば,その糸口として「コレクション・マネジメント」が話題に上ったようです.コレクション(=収蔵品/図書/公文書 etc.)の収集から利用・廃棄までのフローを見直し,メタデータを整備することで館種を超えた横串の利用を行えるんじゃないかということが書かれています.

月並みと言えば月並みな提案ですが,どのように異なる形式のメタデータを連携させていくのか,どのようなインターフェースを用いてどのようなサービスを提供していくのか,そもそもどのようにメタデータを構築していくのか等,この提案は丁寧に見ていくと多くの技術的課題が含まれています.また,これらの課題は技術に閉じたものではなく,いわゆる一次資料と呼ばれる現物の取り扱いにも関係してきます.

このラウンドテーブルから1ヵ月半後には,アート・ドキュメンテーション学会主催の「MLA連携の現状,課題,そして将来」と題するフォーラムが開催されており,活発な意見交換や研究報告がなされていました.MLA連携が動き出す時期がいよいよ迫っているのかもしれません.

ちなみに,ryojin3はなんとかアート・ドキュメンテーション学会のフォーラムには参加できましたので,そのレポートを次回以降書きたいと思っています.

じんもんこん2009から

昨年12月,じんもんこん2009が立命館大学で開催されました.

じんもんこんとは,情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会が主催するシンポジウムで,主に人文科学における情報処理技術全般の研究を対称としています.
毎年気にしているシンポジウムなのですが,年末に開催されることが多いため,仕事と両立することが難しく,ryojin3の出席率はあまり芳しくありません(--;

今回も残念ながら出席はかないませんでしたが,以下の報告が興味深かったので,少しレポートしてみます.

※以下のレポートはryojin3の理解によるところが大きいので,詳細は予稿集でお確かめ下さい.

一般セッション5-A(12/19)
  • 文化資源の電子化における記録情報管理を重視したガイドラインの提案とそれに基づくDigital Cultural Heritageの構築
    • 研谷紀夫(東京大),北岡タマ子(お茶の水女子大),高橋英一(凸版印刷)
東大の研谷氏はトピックマップを用いた人名典拠構築にも取り組んでおり,デジタルアーカイブに関する資料基盤の統合を対象として研究をされています.
今回は,資料基盤の基礎となる「資料のデジタル化」に着目し,凸版印刷と共同でガイドラインの提案とその検証を行っています.

デジタル・ヘリテージ(筆者らは文化資源のデジタル化及び利用に関する全般をこう呼んでいます)構築に必要なフェーズ
  • A. 資料内容調査とデジタル化の計画
  • B. デジタル化
  • C. 評価
  • D. データ管理
  • E. メタデータの構成(F,G,Hの後にも生じる)
  • F. コンテンツ化&パブリッシング
  • G.&H. 学術研究利用+公開
提案されたガイドラインがフォーカスする対象は上記のうちB〜Fであり,各工程において必要となるメタデータスキーマを提案しています.

特に工程Bにおいては,デジタル化に必要な項目を機材別・取得データ別に詳細に項目立てされています.これは,デジタル機器を介して得られるデータからは様々な情報を取得しやすいという状況がある半面,丁寧に取得時の状態を記録しておくことで,後々にデータを再現する必要に迫られた場合,取得当時の状況を限りなく再現可能であるという側面も持ち合わせているのかと思います.

また,工程Cにおける色彩形状評価,工程Dにおける利用・保存を意識したデータ管理,工程Eにおけるメタデータ管理(B〜Dの管理項目をメタデータとして再利用できるよう整理したもの),工程Fにおける利用形態管理,を付与することにより,よりロバストな資料デジタル化工程を確立していると言えます.

今回は提案ガイドラインの評価として,実際に明治期の複数の出版物を統合するデジタル・ヘリテージ構築を行い,ガイドラインが果たした役割と課題を整理しています.

以下に主な役割とその課題についてまとめます.

役割
  • 必要なデータを集約することで対象ヘリテージへの考察がきちんとした根拠に基づいてできた
    • 色彩→複数の出版物・写真・VRコンテンツの差異に対する考察
    • 装飾→図・現在の実物・VRコンテンツの差異に対する考察
  • 具体的な作成記録が取れたので,今後の再現や同様のヘリテージ構築の参考となる 
課題
  • デジタル化のワークフローは対象と目的に応じて都度変化するため,それらに対処できるより柔軟なガイドライン活用が必要
  • ヘリテージ利用のフィードバック(研究考察等)を柔軟に蓄積・コントロールする仕組みが必要
  • 既存のデジタルコンテンツを再利用する際のガイドラインの活用方法の検討
  • 時間とコストを軽減するための自動化施策(ソフトウェアによる対応等)の検討
以下,ryojin3の考察です.

この研究はデジタル・ヘリテージを構築する際に必要となるメタデータを整理して示し,実際に詳細に記録していくことで利用可能なレベルのヘリテージを構築できる点において素晴らしい研究かと思います.

その半面,筆者らも課題として指摘していますが,都度変化するワークフローへの対応や既にデジタル化されている資料への対応等に対して柔軟なコントロールが要求される部分を包括したガイドラインにブラッシュアップされる必要もあるのかと思います.

また,スキーマを眺めていると気付くのですが,記録されるメタデータは作成当時のスクリーンショットに近く,ある時点の情報を1面,スライスしたように記録しています.今後はこのスクリーンショットを(時間的・空間的な情報を取り入れるという意味で)多面的に記録していくことができれば,よりusefulなガイドラインになるのではないでしょうか.

Google×UNESCO

以前,Google earthでプラド美術館を観覧する記事を書きましたが,今度はストリートビューで世界遺産が見られるようになったようです.

一連の国内ニュース記事

Gigazineでは素晴らしい世界遺産旅行(お正月向け?)が公開されています.

この一連のニュースから遡ること約半年,Googleストリートビューでは動物園内や寺院境内を自転車で撮影して施設案内をするパートナープログラムを開始したというニュースもありました.このあたりはVR/ARと博物館にも少し書いてあります.

今回の世界遺産×ストリートビューに自転車撮影が用いられたかどうかはわかりません.しかしながら,現地と地図を拡張現実的に連動させる手法は,現地を訪ねてみたいという動機付けとして十分なものがあると思います.

なお,今回の世界遺産バーチャルツアーはUNESCOとの共同プロジェクトであり,Google/UNESCOのサイトからはGoogle Earth用のkmlファイルもダウンロードできます.