情報知識学会 第17回 2009年度年次大会

先週の土曜日,情報知識学会の年次大会に参加してきました.


今回の研究会は年次大会とあって,26件もの発表があったようです.2教室を使い,セッションがパラレルで走る盛況ぶりでした.ただ,ryojin3は所用があったので,セッションA-1のみ聴講しました.今回は,セッションA-1の中から特に興味深かった発表のみご紹介させて頂きます.

(1) トピックマップを用いた人名典拠情報の構築
 発表者:研谷紀夫(東京大学大学院 情報学環),内藤求(ナレッジ・シナジー)

異名同人・同名異人等の人名典拠情報を管理するために,Topic Mapを用いて関係構造を構築しようとする試みです.Topic Mapはryojin3も関わっているISO/IEC JTC1 SC34のWG3でISO化(pdfが開きます),JIS化(JISX 4157)されており,知識の体系化を目的としています.この発表では,予め人名典拠情報テーブルに基づいて下記のような人名典拠オントロジを構築し,OKS(Ontopia Knowledge Suite)を用いて開発しています.

以下,主なTypesの分類です.

タイプ分類
Topic Types国,人,地名,組織・グループ,職業等
Association Types友人関係,夫婦関係,師弟関係,職場関係,親子関係等
Occurrence Typesよみ(平仮名)名,よみ(平仮名)苗字,ローマ字名,ローマ字苗字,人間関係,関係期間,誕生した地,出典,役職・役割,所属等

人トピックはIRI(Internationalized Resource Identifier)を割り当てることで一意に識別されます.現在は文字列の問題があり,PSI(Published Subject Identifier)公開やRDFとの情報交換については検討中らしいです.

(2) 国内大学図書館におけるデジタルアーカイブの現状
 発表者:鈴木良徳,時実象一(愛知大学文学部)

2005年までデジタルアーカイブ推進協議会が行ってきたデジタルアーカイブ動向調査の続報です.独自にアンケートを行い,国内大学図書館におけるデジタルアーカイブの現状を明らかにしています.

アンケートは,図書館年鑑に基づいて選定された各図書館に対して行われ,Webフォームから回答をもらうという形式を取っています.

アンケートの結果,実施数・保存されている資料数・保存されている資料種類・アーカイブ導入に伴う問題点・著作権処理の実施有無・著作権管理の要望点・標準利用の有無・アーカイブの構築運用体制等について統計的に明らかになった点が多く見受けられます.

また,結論として,デジタルアーカイブが事業としては停滞気味であること,対象物として貴重本が主で,一部博物館・美術館の役割と考えられる絵画/彫刻のアーカイブ化も見られること,予算・人員はもとより,著作権の制約が大きなボトルネックになっていること等が挙げられています.また,デジタルデータの長期保存の観点で考えると,PDF-AやJPEG2000等はまだまだ新しすぎて現場ではあまり導入されていないようです.

(3) 博物館における業務情報の共有とIML (Inter-Museum Loan)システムの可能性
 発表者:田良島哲(国立文化財機構 東京国立博物館)

博物館の学芸業務プロセスの標準化の重要性を,展覧会等の貸借業務を例に論じています.特に,図書館サービスの1つであるILL(Inter-Library Loan,図書館間相互貸借)の考えを発展させ,IML(Inter-Museum Loan)という概念を提案しています.

本文でも触れられていますが,一般的に博物館の業務情報化の話では,MDA(現在は改組してCollections Trust)SPECTRUMが必ずと言っていいほど取り上げられます.国や地域の差異があるので丸ごと利用できるものではありませんが,国内の学芸業務標準化にとって,やはり参考になるようです.

IML(Inter-Museum Loan)とは,貸借業務の「ネットワーク上でのシステム化」のことを指し,主に1)作品・資料自体の移動情報と2)作品・資料の画像情報のネットワークを介した相互利用が想定されています.一言で移動情報と述べましたが,実際に貸借業務を行う場合には,かなり多くのタスクと文書ワークフローをこなすことが要求されるようです.

以下に論文に掲載されていた貸借業務について抜粋しておきます.これは参考になるなぁ.
  • 原則
    • 博物館資料は代替性がない
  • 貸借業務
    • 博物館資料特有の業務
      • 資料の保存状態のチェック
      • 保存状態に基づく輸送及び展示条件の設定
      • 搬送時における借用館または貸出館の職員随伴
      • 搬送・展示に際しての損害保険の付与 etc.
    • 貸借業務時に発生する各種文書処理
      • 貸出の依頼書
      • 借用側の施設環境に関する書類(ファシリティ・レポート)
      • 貸借両館での内部決済書類
      • 貸出の許可書
      • 輸送や保険の契約書
      • 貸出時に取り交わす借用証書
      • 貸付簿
      • 貸出品の状態に関する調書 etc.

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