文化財防火デー

昨日,1月26日は「文化財防火デー」でした.

歴史的には,2000年にW3CがXHTML1.0を勧告した日でもありますが^^,これはさておき,各地の状況は以下のような感じだったようです.

  • Google news(142件.詳細も含めるともっと多い)

防火デーのきっかけとなった法隆寺では,以下のようなニュースが報道されています.

文化財防火デー 法隆寺で防火訓練 - MSN産経ニュース -
2008.1.26 21:18

 「文化財防火デー」の26日、59年前に金堂壁画が焼損し、記念日制定のきっかけとなった奈良県斑鳩町の法隆寺で法要と訓練があり、参加した僧侶らは、過去の惨事を風化させないよう防火への誓いを新たにした。

 この日は、大野玄妙管長ら僧侶が、再現された壁画がある金堂と、焼損当時の壁画や黒く焦げた柱が保存されている収蔵庫で読経し、再発防止を誓った。

 その後、地元の消防隊員らが境内で訓練を開始。緊迫した雰囲気の中、鏡池に向かって一斉に放水=写真、辺りは水煙に包まれていた。

他にも,厳島神社,松本城,致道博物館,下呂温泉の旧大戸家住宅,善光寺,博多の住吉神社等々,日本各地で防火訓練が行われたようです.

(自然のみならず,作為の含めて)災害による文化財の損失は,歴史的・文化的・学術的に大きな打撃となります.例えば,米国議会図書館(LC)では,災害時(主に火災)における資料の応急処置に関する情報を公開しています.


国内でも,文化財の保護を情報技術でサポートする取り組みが各種あるようです.


普通の生活でも,防災はなかなか意識して心がけできないものです(私だけ!?).ガイドラインやマニュアルを一歩踏み出して,人間の意識をふと喚起するシステムが作れないものか,考えてしまいます.

デジタルアーカイブの「標準化」に向けて -追記-

1/16に書いたデジタルアーカイブの「標準化」に向けて,@ITで記事になっていました.

@IT RFID+IC news
メタデータの標準化がカギに デジタルアーカイブとユビキタスコンピューティングの相性は

uID技術をダイレクトにデジタルアーカイブに適用するには課題が多いと感じられます.坂村先生の言うように,アーカイブは保存技術と利用技術から成り立っているとすれば,ユビキタスコンピューティングの活用は利用技術寄り.保存技術で重要となるメタデータスキーマの設計には博物館関係者の暗黙知をいかに設計に反映できるかにかかっていると思います.

少なくとも,全部の所蔵品にIDを振る,なんて無謀なことがないよう...

少しの変更点

このblogは2007年12月24日からスタートしていますが,それ以前に考えた論考や手に入れた資料も逐次公開しようと思っています.

先日まで,このblogには過去に時間を合わせた投稿機能がないと思っていましたが,どうやらできるようです.従って,これまでの記事も逐次時間を合わせて公開しようと思います.

それに伴い,まずは記事「博物館情報学研究会」の投稿日時を 2007/12/30(日)→2007/08/29(水) に変更しました.また,記事「はじめまして」以前にも記事が投稿されることになるので,タイトル名称を「はじめまして」→「このblogについて」に変更しました.

以上,変更点のご報告です.

デジタルアーカイブの「標準化」に向けて

下記シンポジウムに行ってきました.

東大情報学環・21世紀COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」
第14回シンポジウム「デジタルアーカイブの「標準化」に向けて

以下,参加レポです.

※レポはryojin3の所感であり,講演者の意見・意図が100%反映されているとは限りません!その点ご注意くださいませ.


基調講演
  • 題目 :ユビキタス情報社会基盤としてのデジタルアーカイブ
  • 発表者:坂村健

1. シンポジウムの位置づけ
  • ユビキタス社会を車に例え,車を利用するには本体(コンテンツ)・法律・交通ルール(基盤技術:RFID等)等が必要であることを解説.
  • DA は「保存」と「利用」が重要であることを解説.
    • 保存:複製の繰り返しにより永久保存は実現するが,利用にはメタレベルの標準化が必要.
    • 利用:情報配信・データ変換技術の確立により,多目的利用が可能になる.
2. 東大総合博物館デジタルミュージアム
  • 2000 年に坂村氏が取り組んだデジタルミュージアムの説明.上述のDA利用技術を用いて多目的利用を実現したという話.
  • やったこと
    • 複合型展示(1)
      • めがねをかけると展示物の上に説明が表示されるシステムの開発
    • 複合型展示(2)
      • 現物がある場合はそのまま展示し,ない場合は別の場所からデジタルデータを持ってきて表示するシステムの開発.
    • タグ付きの収蔵品管理
      • 収蔵品にタグを付け,タグ情報をリーダーで表示するシステムの開発.
    • MMMUD(Multi Media Multi-User Dungeon)
      • 仮想空間を歩き回れるシステムの開発.今のセカンドライフっぽい.
    • ブラウザを使った閲覧システム
    • など...

3. ucode とユビキタスコミュニケータを使った各種実験
  • モノ/場所とコンテンツ/データをつなぐために,uIDのようなものの標準化が必要.
  • ucode の標準化をするための各種プロモーションの説明
    • 製品トレーサビリティ
    • 自律移動支援プロジェクト
    • 東京ユビキタス銀座
    • ucodeウェル.com美術館
    • 青森県立美術館
    • ミッドタウンツアー etc.

4. 余談で話していたこと
  • 博物館の人から見ると,土建屋とコンピュータ屋は自分達が何か騙されているのではないかと感じるらしい.
  • 博物館はモノを囲い込むのは良くない.保存に影響のない範囲で撮影とか録画を推奨すべき.


報告
  • 題目 :ミュージアムの未来とデジタル・アーカイブ
  • 発表者:田良島哲

1. DA の歴史と定義
  • 歴史
    • 平山郁夫氏が提唱した「文化財赤十字構想」が起源.
    • 1994 世界の文化を未来に継承するデジタルアーカイブ国際会議
    • 1995 デジタルアーカイブ国際会議95
    • 1996 - 2005 デジタルアーカイブ推進協議会JDAA
  • 理解の混乱(1997年頃~2005年頃?)
    • 様々な誤解が生じた.以下間違っていると思われる DA の話.
      • 「デジタル化して永久に保存」という言説
      • 現物より高い再現性が期待されている?
      • 貴重な文化財ほど,より原資料に近く?
      • 最新情報技術の実験場?
        • 一点豪華主義的アーカイビング
      • 原義と異なる DA 代表例:石川新情報書府,Wonder沖縄
        • これもいいが,マルチメディア作品の集合でしかない.
  • 正しい理解
    • マルチメディア情報を並べるのではなく,メタデータを揃えてアーカイブデータを整理することが大事.

2. ミュージアムにおけるアーカイビングの条件
  • アーカイブされた情報として必要なこと
    • 真正性
      • ほんものそっくりではなくても,原資料との同定できればよい.
      • 情報作成時の状況・情報自体の性格がわかればよい.
        • 日時,場所,目的,作成者,作成方法 etc.
      • 情報変更の履歴が必要.確認できない作為の排除ができるから.
    • 長期保存
      • 永久に保存することはムリ.一定期間で割り切ることが大事.
      • 長期保存期間を決める条件
        • 媒体自体の寿命
        • 情報再生手段の普及度
        • 情報の陳腐化による作り直しのサイクル
          • 情報技術の進化とデジタル情報を作る際にモノにかかるストレスを考える.
        • 作り直しのコスト
    • 利用共有が容易
      • 情報保存手段・媒体
        • 標準:4×5シートフィルム,光ディスク等
        • データ形式:TIFF, JPEG等
        • 共有できるメタデータ形式:まだない.
        • 使いまわし:デジタルシネマ等の実例あり.
    • 適正なコスト
      • アーカイブは数が命.貴重な文化財だけではダメ.貴重は今日の評価でしかない.現在貴重でないものの中から新たに評価されるものがある.事業としても成り立たない.
      • 原資料の管理コストを上回るデジタル化は無意味.
      • 一般社会の資料よりも長期に保証される必要がある.
  • まとめ
    • 技術コストは満足のいく範囲にある.
    • 政策的方針の欠如がある.
    • 情報技術と博物館業務の両方に長けた人材が不足している.
    • DA の実現には,安定技術で長期保存+使いまわし+共有可能なメタデータ
    • システムは低コストが好ましい.
    • 業務分析を通してメタデータを溜め込む仕組みを考案したい.
    • 学芸員(研究員)の知的関心を喚起するようなシステムを作りたい.

パネルセッション
  • パネリスト(敬称略)
    • 東京国立博物館 田良島哲
    • 国際資料研究所 小川千代子
    • 凸版印刷 加茂竜一
    • 筑波大学 杉本重雄
  • コーディネータ(敬称略)
    • 東京大学 研谷紀夫
  • 最初に小川氏,加茂部長,杉本氏から自己紹介+話題提供各 10 分.
  • 小川氏の話
    • アーカイブは蓄積して「利用」することが大事.
    • アーカイブは媒体変換と考えてよい(媒体を変えて半永久的に情報を保持する).
    • デジタル化はまずフィルムを作ってから行うのがよい.
    • MLA(Museum Library Archive) の連携はこれから.
  • 加茂氏の話
    • DA の種類:平面,立体,VR
    • DA の定義:デジタルデータの保存/研究/管理,将来にわたり様々な表現手法で.
    • DA を分類(価値化の循環,標準化・体制・資金が大切)
      • 保存:劣化対策,修復時利用,バックアップ,撮影等の危機回避,情報収集
      • 研究:情報解析,学術研究
      • 公開:教育,閲覧・公開,情報交流,メディア展開 
    • 印刷応用
      • 印刷サイズと色調表現の DA へのフィードバック
      • 光源スペクトル計測(色特性)の保存@ウフィツィ
        • 用途によって残すデータを考えることが大事
      • 様々なVR例
        • マルチシナリオ:相手によって話す内容を変える,インタラクティブメディア
    • 最近の VR コンテンツの使い方
      • 展覧会に併せて,ハイビジョン,DVD 販売等
  • 杉本氏の話
    • 定義
      • DL(Digital Library):ネットワーク環境を利用して,環境資源を収集・蓄積・保存し,利用者に提供するサービス(図書館機能)
      • DL からみた DA:ディジタル資料の蓄積,長期保存し,提供するサービス.
      • 関連語:Digital Curation,Digital Preservation
    • 図書館での DA
      • 既存のものを電子化して作成したリソース:貴重書,歴史資料,映像,音声資料,有形無形物
      • 電子出版物:パッケージ/ネットワーク系,商用/非商用,限定/オープンアクセス
    • 図書館にとっての長期保存
      • 納本・保存→デジタルだと読めなくなる可能性がある
    • アーカイブモデル
      • 収集リソース→収集→電子化・組織化・媒体変換・権利管理→蓄積保存→提供・検索・アクセス・アクセス制御・アクセシビリティ→提供リソース
      • 収集から提供において,長期間とは10年間以上
      • 収集から提供の間が長くなると,Look-and-Feelで利用できなくなるリソースが多く現れる.
      • いろんな問題:保存技術,技術変化に対応する技術,メタデータ作成等など
      • 解決策の1つ:保存リポジトリの協調によるコスト削減など
    • メタデータ:保存指向→OAIS,PREMIS,METS,EAD等,相互運用性→RDF,DC
      • 知的内容,技術的内容,管理情報等の記述
        • 詳細レベルの記述も必要
        • できるだけ作成とメンテナンスコストを下げる必要
    • 課題
      • DAの役割は将来に残す
      • 保存範囲(何を),保存期間(いつまで),保存内容(保存すべき内容は?劣化の許容範囲は?)
      • 著作権やプライバシーの問題
    • 終わりに
      • DAはMLAのみならず大学・企業・行政などの共通課題.
      • 情報流通と共有のための基盤が必要

議論
  • パネル全体像のスライドに光が当たって見づらい.カメラ持って来ればよかった...
  • ボーンデジタルではなく,1次資料のデジタル化を中心にする
  • 成功した DA 例とは
    • 網羅性(質の高さより,利用者を失望させないくらいの量の多さ)
    • アジア歴史資料センター
    • ユネスコのポータルサイトに見られる(Library/Archive Portal)の階層的区分DA
    • ビジネスとしては"?".権利関係が難しい.
  • デジタル化と保存について
    • 公開したものは半永久的.技術的に利用できなくなる可能性があるのが不安.5年に1度はマイグレ(手当て)すべき.
    • 100年単位の保存に耐え得る技術開発を望む.
    • 東博はデジタル化予算+プロジェクトレベルの予算あり.最初は10年くらい写真のデジタル化.今は発生する年間4×5写真フィルム5000枚程度はデジタル化できる.ノウハウを中小規模の博物館に展開すべき.
  • メタデータの設計について(網羅性と保存・メンテナンスの観点で)
    • MLAは要求範囲が広い.コスト,特殊ソフト利用時,保存,等問題は多い.
    • 共通メタデータは難しいが,あえて考えると相互運用+ネットの利用を考慮すべき.スキーマ設計が重要.
    • 撮影はフィルムなので,ボーンデジタルに残るEXIFは使えないのが残念.
    • VRの場合.ちょっとした調査で数万枚オーダー.他に活用できそう.
  • メタデータのIDの共有化について(収蔵品にユニバーサルなIDを付けられるか?)
    • 現実的ではない.モノの特定が難しい.一意のIDは追求しないほうがよい.
    • 機関にIDがあり,その下に自由度がある形式が良いのではないか.
    • 概念へのID付けは難しい.
    • IDを用いてトレーサビリティができればうれしい.
  • 画像データの進化について(解像度と人間の視認性)
    • データ精度はフィルムを超えた.今後は作り方(モノの意味,解釈,目的)を考えてスペック決め・デジタル化すべき.
    • 例えば東博ではモノの大きさは考慮せずに4*5に押し込めている.モノから意識したデータの取り方は重要になっていく.
    • 3Dの計測データは標準がないのが問題.
    • 標準を進めるには多くの人がシェアできる方策が必要.具体的にはスキーマのシェア.
  • DAにおける標準化との関わり方
    • 具体的な数値目標よりも,概念の共通化が標準の第一歩.国際的に見て,ユネスコをフォローしたらよいかも.
    • ISO,JISを使う.
    • 標準化よりも標準そのもののメンテナンスやどう使われていくかを考えることが大事.
    • 現場の分析から,現場で使われる標準が必要.

ICOM/CIDOCの取り組み(2)

CIDOCはIGMOI(前の記事参照)提案と同時に,1995年に「CIDOCリレーショナル・データ・モデル」(CIDOC Relational Data Model)を提案します.このモデルでは,IGMOIのガイドラインをリレーショナル・データベース(RDB)に適用するためのデータ構造が示されています.

そもそもCIDOCがRDBへの対応を考慮した背景には,当時(そして今も)RDBがデータベースの世界で全盛を誇っているからであり,各博物館で実際に利用されているデータベースの大半はRDBで作られているという事実があったからだと思われます.

RDBはデータ集合を表形式で表現し,表を関係付けることで形付けられます.いくつものテーブルが複雑に連携しあい,かつテーブル上のデータが重複する冗長性を避けるよう設計されます.したがって,RDBは最初に行うスキーマ設計(どのフィールド(項目)をどのテーブルで管理するか)が非常に重要になります.

きちんとしたスキーマ設計に基づいてデータベースを構築すると,そのデータベースで扱う範囲においてデータの活用はやりやすくなります.しかし,これは裏を返せば異なるスキーマを持つデータベースとの連携が難しいことを意味します.

そこで,CIDOCは1998年に異なるスキーマを持つデータベース間での情報交換や統合に焦点を当てた「概念参照モデル」(CRM: CIDOC Conceptual Reference Model)を提案します.

CRMとは,一言で言うと「オントロジを用いた情報記述の枠組み」になります.これまでの提案のようにスキーマ設計の指針(具体的なフィールド名等)となるガイドラインとは異なり,文化財に関する基本概念をオントロジを用いて記述するのです.

オントロジとは,これまた一言で言うならば,「分類体系と推論ルール集」になります.世界にあるモノを体系的に分類し,それらの関係性を記述するものがオントロジです.具体的には諸々の書き方がありますが,CRMではRDF/XMLを利用することになります.

ふぅ.

RDF/XMLについてと,CRMの具体的な使い方については次回!

参考文献