Memory Maker



オークランド戦争記念博物館は,1852年に開館したニュージーランドの国立博物館で,戦争関係以外にも,歴史・自然史系のコレクションを持つニュージーランドの主要な博物館だそうです.

先日,この博物館が中心となり面白いCGC(Consumer Generated Contentって言葉あるのかな)サービスが公開されました.
ネタ元はCurrent Awareness(2008.11.17)です.
このサービスは,National Digital Forum(ニュージーランドの図書館・博物館・文書館の連合体)のプロジェクト「DigitalNZ」の一環であり,第1次世界大戦の休戦協定成立から90周年を迎える記念として公開されたようです.

仕組みは以下のようになっています.
  1. まずNational Digital Forumを構成する130を超える機関が大戦中の兵士の画像や音声映像等をコンテンツとして提供します
  2. ユーザはこのコンテンツ群を自由に組み合わせてFlashビデオ作品を作成し,Memory Makerサイトに投稿します.
  3. ユーザは投稿作品を TOP VIDEOS/LATEST VIDEOS という形で閲覧でき,
  4. 更にURL,Embed URL,Emailを通して共有することができます.
コンテンツの作成は非常に容易で,コンテンツ種別やエフェクト毎にタブ分けされたプレビュー画面から,タイムライン上(コンテンツ別にタイトル・ビデオ・オーディオ・音楽がある)にコンテンツをドラッグ&ドロップして組み合わせていくだけで最高1分の作品が作れます.

表 コンテンツの種別と数
フォーマット/エフェクトコンテンツ数
Video(映像)10
Audio(音声)13
Transitions(エフェクト)6
Titles(タイトル)21
Graphics(画像)計156
Music(音楽)20

DigitalNZ」ではMemory Maker以外にも,ユーザが作った各種ウィジットや開発者向けAPI,コンテンツ提供者向け情報を公開しており,2.0な世界を意識した作りになっています.

博物館を中心とするコンテンツホルダーがコンテンツを提供し,サイトはその利用環境(コンテンツ・API・各種ウィジット等)を提供する.ユーザはその環境下で複合的にコンテンツを利用する.利用するのみならず,自作のソフトウェアや他所のAPIと組み合わせてMash upしても良い.

このような試みは高く評価できると思います.日本国内にも歴史的・芸術的に見て価値のある様々な博物館系コンテンツがデジタルアーカイブという名の下で公開されつつあります.しかし,ユーザはその世界で検索と閲覧のみが許され,例えば教育用コンテンツの作成や芸術コンテンツの創作といった2次的な利用やその方法についてはあまり考慮がなされていない気がします.

ニュージーランドでは国が先導して取り組んでいるので予算が付くし,コンテンツの質も保証されているというアドバンテージがあると思いますが,コンテンツの利用という点では,このような試みは今後の新しいデジタルアーカイブを考える上で非常に参考になるのではないでしょうか.

アート・ドキュメンテーション学会 第1回 秋季研究発表会

2008年12月6日(土),アート・ドキュメンテーション学会主催の第1回秋季研究発表会に参加してきました.会場は印刷博物館.参加者には印刷博物館で開催されている企画展「ミリオンセラー誕生へ! 明治・大正の雑誌メディア」および総合展示ゾーン,VRシアター等の見学もできるチケット付きでオトクでした.

※レポはryojin3の所感であり,講演者の意見・意図が100%反映されているとは限りません!その点ご注意くださいませ.

基本情報
  • 日時:2008年12月6日(土)10:30 - 17:00
  • URL:http://www.jads.org/news/2008/1206.html
  • 参加者:100名弱?ちょっと自信なし
  • 参加者に対して会場がややせまい.3人がけの長いすに3人座る感じ

プログラム(敬称略)
  • 戦後新聞社主催展覧会資料の調査および収集の展望
    • 国立新美術館、日本美術情報センター 橘川英規
  • 文字を残すための序論的考察
    • 立命館大学グローバルCOE客員研究員 當山日出夫
  • 東京国立博物館の収蔵品管理システム
    • 東京国立博物館学芸企画部博物館情報課 村田良二
  • ファンドレイジングとドキュメンテーション
    • 東京都写真美術館 末吉哲郎
  • 版木資料のデジタル・アーカイブについて
    • 日本学術振興会特別研究員DC1/立命館大学アート・リサーチセンター 金子貴昭
  • 博物館図書室の業務と既存次世代図書館システムの機能
    • 総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻 矢代寿寛
  • 英国V&A博物館とスコットランド国立博物館所蔵浮世絵のデジタルアーカイブ
    • 立命館大学アート・リサーチセンター 赤間 亮
概要
  • アート・ドキュメンテーション学会は博物館・図書館の資料管理部門(データベース利用やメタデータ作成)の人たちが主な聴衆
  • これまで学会では年1回2日間の年次大会を開いてきたが,発表件数が増えてきたので今回初めて研究会を開いたようだ
  • 最後のほうで幹事の方がおっしゃっていたが,研究会を開くに際して,まだ統一的な土台(基礎的な情報の共有)が薄く,発表の内容が研究よりもその背景説明に終始してしまう傾向が見られたようだ

各発表メモ

戦後新聞社主催展覧会資料の調査および収集の展望
  • 会場に到着した頃には終わりかけ・・・ここに書くほど理解できていませんので,割愛します
文字を残すための序論的考察
  • デジタルアーカイブをするなら,異体字の取扱いにも注意しようという話
  • 異体字を含むメタデータの検索では適合率が下がる
    • 表記揺れの吸収
    • シソーラスの整備
  • アーカイブ時の「文字同一性」が重要
  • JIS改訂に併せて,図書館では古いJIS本が廃棄される(!)
  • デジタルアーカイブの問題
    • ベンダ依存の文字コードの取扱いの難しさ
    • CD/DVD/HDD 等のメディア保存問題
  • 会場からの質問
    • PDF/Aと日本の現状の違い,特に制作の標準化について
      • ryojin3 は PDF/A をよく知らないので,あとで調べる
      • ISO化はされているらしい
    • 外国の古代文字アーカイブ
      • フォントデータ(もしくは画像)+コードポイント
      • 古代文字アーカイブってどう管理してるのかな
    • Google bookの動向
      • これも気になる.あとで調べる
  • 会場からのコメント
    • 歴史的文献研究では,研究の本質ではない部分で,意外と表記の揺れや古い表記等が気にならない場合がある
東京国立博物館の収蔵品管理システム
  • 情報処理学会第68回デジタルドキュメント研究会での発表を,今回の聴衆向けにModifyした感じ
  • 博物館では,中の人で設計・実装できる人は相当貴重.発表後もいたるところで質問されていた
  • 会場からの質問
    • MDA SPECTRUMとの違いは?
      • 東博独自のワークフローを分析してスクラッチから作っているのでSPECTRUMは参考程度
    • システムへの入力規則みたいなものはある?
      • 今後.揺れを吸収していく方向
ファンドレイジングとドキュメンテーション
  • 美術館・博物館での資金集めの話
  • 発表者はWBSにも出たことがあるらしい.なんとなくその時テレビ見てた気がする
  • 資金を出す企業のメリット
    • PR,CSR,社会教育の場として利用
  • 維持会員のメリット
    • 特別展のオープニングセレモニーに呼ばれたり → 顔つなぎで結構大事らしい
    • バックヤードを見れたり,あといろいろ
  • 資金の使い道
    • 作品・資料購入-- 国際交流(シンポジウム開催等)
    • 企画展運営費,あといろいろ
  • 評価
    • 日経の実力調査で評価されている
  • ryojin3の感想
    • もっとキチンとした対外評価基準はないのだろうか
    • ファンド集めとドキュメンテーションの関係がよくわからなかった
版木資料のデジタル・アーカイブについて
  • 版木資料は英語で「Japanese Wood Block」
  • 版木のデジタル化手法のアレコレを紹介
    • ライティング手法
    • カメラ選定
    • カメラ配置手法
    • 被写体配置手法
  • デジタル版木DBのアレコレを紹介
    • 主にメタデータの設計が中心
    • 版木を「柱台」中心にグルーピング?した設計
    • アクセス権限の話
  • 会場からの質問
    • DRMは?
      • 今のところ特にない
    • メタデータにある論文参照はどうやってやるの?
      • 論文へのリンクはNoteという項目からReferできる
博物館図書室の業務と既存次世代図書館システムの機能
  • スライドが黄色い! プロジェクタの出力ミス?
  • 博物館図書室
    • 専門図書館の一種
    • 専門図書館の定義(ALA図書館情報学辞典より)
      • 組織の目標を追求する上で、そのメンバーやスタッフの情報要求を満たすため、営利企業、私法人、協会、政府機関、あるいはその他の特殊利益集団もしくは機関が設立し維持し運営する図書館。コレクションとサービスの範囲は、上部もしくは親機関の関心のある主題に限定される。
  • 次世代図書館システム
    • 次世代ILSと次世代OPACに分類できる
      • 次世代ILS
        • Integrated Library Systemの進化版?
        • Intelligence Library Systemの進化版?
        • どっちなんだろ
      • 次世代OPAC
        • OPAC(Online Public Access Catalog,オンライン蔵書目録)の進化版?
        • ソーシャルタグ付け・外部API利用・コメントやレビューができる機能を有するあたりから来る
  • 次世代図書館システムの機能
    • 検索
      • 検索側:統合,横断,キーワード入力支援,ファセット,タグ,内容目次
      • 結果側:パーマリンク,ブックマーク,ソート・絞込み,拡張的書誌情報表示,検索結果・書誌エクスポート
    • 利用者参加
      • ソーシャルタギング,コメント,レイティング,レビュー
    • その他
      • 新着資料等RSS配信,資料推薦
    • 会場からのコメント
      • 博物館図書室は書籍とモノをつなぐ重要な部分.外向けよりも内部利用者に目を向けてあるべき姿を考えるべきだ
      • 背景説明に時間がかかり,本質部分の時間が短すぎた.これは研究背景の共有ができていない学会の現状を浮き彫りにするものかもしれない
英国V&A博物館とスコットランド国立博物館所蔵浮世絵のデジタルアーカイブ
  • 立命館大が行った海外博物館のデジタルアーカイブ紹介
    • ヴィクトリア・アルバート博物館:浮世絵,38000枚
    • スコットランド国立博物館:浮世絵,4700枚
  • アーカイブ化をしてわかったこと
    • 泣き別れになっていた続き物の作品が見つかった
    • 同じだと思われていた印刷文字の違いが見つかった
  • 今後
    • 誰がどれを作ったのか,真贋判定も含めて調査研究が必要
所感
  • 博物館とか図書館で,資料を扱うための様々な要件が様々な方面の人たちから発表された,という印象
  • 最後の講評で,学会の会長が言っていたが,「これらの研究発表の上位概念として,メタレベルの「何か」がある」いうことは実感できたかもしれない
  • 以下のような分類.大きく分けると,アーカイブと中の人調査/対応
    • アーカイブ:戦後新聞,文字,版木,浮世絵
    • 中の人調査/対応:東博システム,ファンド,博物館図書室