「独立行政法人国立美術館における情報<連携>の試み」を読んで

東京国立近代美術館が全文pdfで閲覧が可能な研究紀要第12号(2008.04.08)を発行しています.

その中で,美術館の情報連携に関する論文が発表されていました.
この論文について,少しまとめておきます.

主な要点は以下の通りです.
  1. 既に公開されている情報資源の整理
  2. いろいろな連携プロジェクトの紹介
    • 所蔵作品総合目録検索システムと文化遺産オンラインの情報連携
    • 美術館の所蔵図書の情報連携(ALCとWebcat)
    • 所蔵作品・所蔵図書・アートコモンズと想 - IMAGINEの情報連携
  3. 考察
それぞれについて,簡単な解説と考察を加えます.

1. 既に公開されている情報資源の整理

国立美術館とは
国立美術館の公開情報
上記の公開情報と国立美術館の事業展開は,国立美術館のWebサイトからリンクしてあるが,システム・運営主体(各館)・法人としてのプレゼンス(存在感)を向上させるためには,間口(人,方法,機会等)を広げ,更なる他関連機構との連携が必要.

2. いろいろな連携プロジェクトの紹介

■所蔵作品総合目録検索システムと文化遺産オンラインの情報連携

文化遺産オンラインとは
  • 文化庁の文化財ポータルサイト
  • 2007年10月現在80館が参加
  • 2008年4月現在60359件が公開
  • 各館から文化遺産オンラインへの登録方法
    • CSV形式でDBにインポート
    • オンラインで作品を1点ずつ登録
実証実験(1)
実証実験(2)
  • 4館総合目録を実証実験(1)の方法で文化遺産オンラインが収集
  • 2007年10月に実施
  • 登録件数が577件から28000件あまりに増加
  • 内訳
    • 東京国立近代美術館 11831点
    • 京都国立近代美術館 6950点
    • 国立西洋美術館 4242点
    • 国立国際美術館 5330点
    • 計 28353点
■美術館の所蔵図書の情報連携(ALCとWebcat)

ALC(Art Libraries Consortium)とは
  • 美術図書館連絡会.参加館が図書情報を持ち寄り,美術図書の館横断検索システムを提供している.
Webcatとは
  • 学術研究目的の図書情報検索サービス.
情報連携の流れ
■所蔵作品・所蔵図書・アートコモンズと想 - IMAGINEの情報連携

想 - IMAGINE - とは
  • 国立情報学研究所が開発した検索システム.複数のDBを一覧できるインターフェースと各DBを検索する連想検索エンジン「GETA」を持つ.
想 - IMAGINE Arts 構想
アートコモンズとは
  • 国立新美術館の展覧会情報サービス.
  • 2007年12月現在,以下の情報を提供.
  • 展覧会情報 12313件
  • 美術館・美術団体・画廊情報 約600件
  • 情報は増える一方で,コストの都合上情報提供の質を上げるのは困難になりつつある.
予備実験(1)
  • 4館総合目録(文化遺産オンライン実証実験(2)で用いたデータ)をGETAに食わせる実験.
  • 2007年度に実施.
予備実験(2)
  • アートコモンズから出力した展覧会情報から検索用メタデータを抽出.
  • メタデータは想 - IMAGINE Artsに登録.
  • 登録することで,文化遺産オンラインや東京国立博物館名品ギャラリー等と共に横断検索・情報提供が可能となった.
3. 考察

■メタデータの利用
  • アートコモンズと想 - IMAGINE Artsの連携予備実験からもわかるように,アートコモンズの情報をメタデータ化し,様々なシステムで利用することでメタデータを介した緩やかなシステム連携が可能.
  • アートコモンズに限らず,各館で管理している情報群(4館総合目録や,図書情報)からメタデータを抽出,構造化しておくことでメタデータを媒介に様々なシステム連携が可能かもしれない.
長くなりましたが,以上が論文のまとめです.長すぎてあまりまとまっていないか...

ryojin3の考察

さて,この論文を読んでの考察です.

このような取り組みはユーザにとっては非常に嬉しいものです.なぜなら,ユーザにとって利便性(検索システム毎に検索方法を覚えなくて良い)・網羅性(一度の検索で複数のシステムを検索できる)・質の確保(美術館のお済み付きの情報)といった観点から非常に有益だと考えられるからです.

また,メタデータを用いてシステムを媒介させるアプローチも正解だと思います.メタデータは人間の知識が反映されたものであり,コンピュータはメタデータを指針に,ユーザの欲する解を探しやすくなると言えます.

ここで問題なのは,どのようにメタデータをハンドリングすべきかに帰着するでしょう.

例えば,4館総合目録と文化遺産オンラインの連携では,目録を文化遺産オンライン形式に変換することで連携を実現しています.目録のどの項目を文化遺産オンラインのどの項目にマッピングすべきかを考えるには,専門家の知識が求められます.

また,アートコモンズの展覧会情報はChasenで形態素解析され,必要と思われる語彙をメタデータとしてGETAに食わせることで想 - IMAGINE Artsでの検索を実現しています.ここでは形態素解析の結果から必要語彙を抽出し辞書を作成する作業はやはり専門家が行うことになります.

専門家が用意したマッピングパターンや語彙は,一般ユーザが行ったそれと比べ,信頼性が高いのは事実です.しかし,専門家と言えども人間が行うそれらの行為には,どうしてもマッピングのずれ(本当に正しい対応が取れているか)や,必要な語彙のずれ(本当に必要な語彙が選定されているか)が生じると思われます.

また,今回の論文では取り上げられていませんでしたが,博物館系のメタデータには,これまで他の投稿記事で述べた通り,世界的あるいは国内の標準と呼ばれる形式があります.これらの標準メタデータ形式を中間形式としてデータの相互変換を行うことも考えられますが,やはりキッチリやろうとすると,上述のようなずれが生じやすくなります.

このようなずれを解消するためには,キッチリとしたメタデータの運用(ある特定のメタデータ形式にマッピングするとか,必要な語彙を選定する,等)はさほど重要ではないのかもしれません.つまり,各館が管理するデータベースのスキーマを,インターオペラビリティの確保を前提に,緩やかに分解統合できるような仕組みが必要になるのだと思います.

そのような仕組みについて考えていることがありますが,それはまた次回^^

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